同物異名

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れいなゆ小ネタ

れいなゆ小ネタ
本当にメモ



 華奢な身体は軽く肩を押しただけで、本当にあっけなく白いシーツに倒れ込んだ。目の前の女は何がおかしいのかくすくすと笑いはじめてこちらの苛立ちを煽る。
 ふ、と邪な考えがよぎった。このままなによりも先に身体を奪ってしまおうか。そう思いついた零がベットに左手を付くと、ぎし、とスプリングが鳴った。マットレスが沈み込んだ拍子に小さな頭がこてんと傾き、柔らかい髪が零の大きな手にかかった。
 今までだって幾度もなし崩し的に身体を重ねては恋人のような関係になった相手がいた。面白いことに、どんな相手でも時間をかけれてやれば心はあとからいくらでもついてきた。なら、いっそ、誰かが暴くくらいなら自分が奪ってしまえばいい。案外一度抱いてしまえば胸の内にくすぶり続ける苛立ちも消えてなくなって、その他の人間と同じように接することができるのかもしれなかった。
 言い訳を並べ立てて、頭の中で常識を説く声を追い出す。血液が重力に従って落ちたまま頭まで上がってこなくなるのがわかった。
 華奢な体を潰さないようにしながら、それでも逃げることができないくらいには体重をかけて馬乗りになる。到底同じ内臓が詰まっているとは思えない薄い腹は、服越しでもやわらかくまだ小さく笑って震える横隔膜の振動を零に伝える。胸元は歯を立てたくなるまろやかな曲線を描き、浮き出た鎖骨の窪みから続いて片手で手折れそうな白い首が繋がる。彼は今にも舌舐めずりして獲物を喰らおうという肉食獣のような瞳で自分の下の女の姿を見下ろした。
 図体のデカい男に組み敷かれて怯えればいい、どんなに泣いたって構わない。整然としていたはずの頭の中を引っ掻き回す感情を生み出す原因はこの女だ。嫌だと泣いた分だけ酷くしてやろう、少しは胸もすくに違いない。その後とびきり優しくあまやかし、身体と心がバラバラになって俺の名前を呼ぶまで犯しつくしてやろう。当然見たこともないあられもない姿が、高い声が、目の前の光景と重なる。
 欲にまみれた瞳が、彼女の澄んだ瞳を覗き込む。視線がかち合っても相手の瞳には何の怯えも、色ものってはいなかった。水中にでもいるかのようにシーツの上で広がる髪に指を絡めこちらを見上げている。
「もう、零さん重たいですよ」
「逃さないようにしてるんだよ」
「逃げませんよ。それよりも、さっきから変ですよ、何にも言わないんですもん」
「なぁお前は正気か。前も言ったがお前には危機感がない。
 今みたいに密室で男の手にかかればお前はもう逃げられないし、助けも来ない。俺に首を絞められたって、ただ殺されるしかないんだぞ」
 するりとしなやかな首に手をかける。指先に彼女の鼓動が伝わった。
「でも零さんはそんなことしないでしょう?」
 ここまでしても那由多は「ね、どいてください」とあろうことかあどけなく微笑んでみせた。覆いかぶさられてなお、零が自分のいうことをきいてどいてくれるだろうということに一片の疑いもないのだ。その信頼は零の微睡んでいた理性を叩き起こした。
 急速に頭が冷える。
「ほら、はやく」
 じゃれ合う子供のように那由多の手が零の胸板を押した。当然彼女にそんな力はなかったが、零の身体は簡単に後ろへと引く。集まっていた熱は霧散してしまった。
「はぁ、」
 ひどく大きな溜息を一つ。零は緩慢とした動作でベットから降りて、そのまま那由多の手を引いて起こしてやった。
「いつか痛い目をみるぞ」
「零さんは心配性ですね」
「そんなんじゃない。
 ……寝覚めが悪いだろ。同じ研究室にいるやつがそんな目にあうのをのうのうと見てるのは」
「やっぱり優しいんですね」
「はあ、お人好しも過ぎると身を滅ぼすぞ。
 ただ俺はお前が泣かされるのが気に食わないだけで」
「それじゃあまるで、零さんは私のことが好きみたい」
「は」
「……なんて、ふふ。零さんは私なんかよりも素敵なお相手がいますものね」



いつか完成するかもしれないけれど
零さん好きな相手に無理矢理とかしなさそうなので
まだ好きを自覚する前の若い頃を想定したけれどちょっとさすがに那由多さんに危機感がなさすぎるので没かな……
でもでっかい男にのしかかられてなおおっとりと笑ってほしいし、襲われるかもなんて一ミリも考えない姿に感情をめちゃくちゃにされてほしい。後で大反省会するしちゃんと謝る。こんな危機感のない生き物を野に放ったら何に喰われるか分かったもんじゃないから俺が守らないと……となる。
ちゃんと付き合い始めてからか結婚したあとに、同じようなアングルで対面した際にふと「実は初めて会った時とあのときだけは零さんが怖かった」と言われて大反省会2回目が開催される。「本当にそのときだけで、今はもう怖くない」と宥められてそれはもう大切に大切にしてくれ。close
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