書きかけ獄さんと寂雷さん♀
急に進路を変えた台風が猛威を振るう夜だった。混乱を見せていた駅前も徐々に人通りが少なくなり、暴風雨の向こうの大型ビジョンからだろうか、途切れ途切れにニュースの中継の音が聞こえる。
そんな場所に一組の男女が電話を片手に立っていた。一人は見るからに仕立ての良いスーツとトレンチコートの男で、その襟元には弁護士バッチが鈍く光を跳ね返している。トレードマークのソフトリーゼンが雨で力なく崩れているのが珍しいが、それすらどことなく色気となっているナゴヤディビジョンの有名弁護士、天国獄である。もう一人は髪の長い女で、化粧っけの薄い顔だがすらりと伸びた手足と隣の獄に負けない長身が目を引いていた。雨よけにしている白衣と思わず耳を傾けたくなる穏やかな声は、こちらもシンジュクディビジョンで知らぬものはいない医師、神宮寺寂雷である。
二人は残念なことに寄りそうでもなければほほえみを交わしているわけでもない。ただ真剣に互いの電話の向こうへと語りかけていた。
「だから!
帰れねぇっつってんだろ!」
風の音に負けぬよう声を張る獄は、電話の向こうへもう三回目になる状況の説明をしていた。
「台風で、公共交通機関は軒並み停止。道中停電もあって車もろくに動かねぇ。シズオカディビジョンで足止めだ。ちったぁニュースを見ろ!
は、歩けるか馬鹿野郎。二日はかかるぞ。お前と一緒にするな」
まだ続きそうなそれを横目に寂雷は本日二十九件目のホテルへと電話をかけていた。おもえば二人でそれぞれ同じタイミングで各ディビジョンへ電話をかけはじめたのだ。なお、シンジュクの面々からは『お気をつけて、なにか力になれることがあれば連絡を』と心配と労りの言葉をもらってあっさりと終話をしている。やはり大人と違って子どもたちは心細かったり寂しいのだろうなと思えば微笑ましくもあり、寂雷は目尻を下げては獄に睨まれていた。